カチューシャ少女は注射が大好きだった。それは子供にしては珍しかった。
疑問に思った者達は彼女に質問した。
「どうして君はそんなにも注射が好きなんだ?」
「パパに注射されているうちに好きになったの」
「パパはお医者さん?」
「そうよ」
「パパは素晴らしい人なんだね」
「そうよ。パパに注射されると、世界がぼやけて輝いて見えるのよ。それで極彩色の素晴らしい世界に行けるの」
娘とお医者さんごっこをしていた男が逮捕されたのは間もなくのことであった。
そして、娘は麻薬中毒の矯正施設に送られた。
お注射を失った彼女に残されたのはパパからもらったカチューシャだけだった。
(遠野秋彦・作 ©2022 TOHNO, Akihiko)